ミュンヘン ホステル勤務開始
ドイツ語もわからず受付で働くなんて、どないなるんやろか。
文字通り、右も左もわからない。というような気持ちで、 緊張しながら向かった。
最初の3日間は、 先輩スタッフとマンツーマンでOJTとの事だったので、( どんな人かなぁ。どんな雰囲気かなぁ。)と、 全く新しい環境に突入するドキドキ感を久しぶりに感じていた。
「こんにちはー、どうもナオヤです。宜しくお願いします」
と職場となる受付に入っていくと、陽気なブラジル人、 リオデジャネイロ出身のイングリットが出迎えてくれた。
リオデジャネイロといえば連想されるのはやはりリオのカーニバル で、 彼女もまたそんな文化の元で産まれ育ったのであろうというような 、初見から陽気であった。
「ヘイ、ジャパニーズ!」と挨拶しては「あついねー今日は。 調子はどう?楽しい仕事だから安心してね!」と、 僕の返事を待たずして、矢継ぎ早に話していた。
(ジャパニーズって。。。)と思いながらも、緊張が溶け、 早速一通り仕事の流れを教えてくれた。
もちろんたが、まずパソコンの設定もドイツ語なので、 なにをどう操作していいのかすらわからず困惑し、 あれこれ質問していると
「だーじょーーーぶ!毎日使ってたら慣れてすぐ覚えるから!いまはそこまで覚えんでええよ!」 と言われた。
直感で、(あ、この人教えるん面倒くさいんやろな。)と感じたが、僕としても、まぁ気楽にいこか。 という気持ちになったのでよかった。
一通り基礎の基礎を教えてもらったあとは、 彼女の陽気さと僕の喋りの性格が相まって、雑談タイムになった。
幸いにもそんなに忙しい日ではなく、 初日から詰め込んでも仕方ないとの事で、 リラックスしたまま雑談を楽しんでいた。
お互いの経歴などを自己紹介しては、 イングリットは僕に興味をもってくれて、 心を開いて話してくれた。
「あー今日は暇でよかったね!」と言っては、音楽にあわせて ビートを刻みながら体を揺さぶり、 ウロウロと僕の周りを歩いては、 なぜか指で僕の体をつつきながら「フゥーー!イェーイ!」 と盛り上がっていた。
まさに南米産の陽キャラといったところである。
新しい環境の中、 心を完全に開ききるまでもう少し時間のかかる、日本産の微陽キャラ の僕は、
「日本で仕事のトレーニング初日に、 トレーナーから体触られる事なんて絶対に起こり得ないね。」 と笑いながらいうと、その大きい口を開いてゲラゲラ笑いながら、
「 文化の違いっておもしろいよねー!」といって、引き続きビートを刻んでいた。
さて、基本中に基本を覚えた僕は、実際に次のお客さんのチェックインをすることになった。
ドキドキする気持ちを抑えつつ、大きなリュックサックを背負った20代の男の客が入ってきた。
僕は「ハロー!」といい、続けて「チェックインかい?」と聞いた。
すると「そう、予約がしてるから、チェックインよろしく!」的なことを、ドイツ語で言われた。
ドイツ語。早速、万事休す。
英語でチェックインに際して言わなアカンリストを作ってたんやけど、ドイツ語は今日帰ってからトムに訳してもらうつもりだったのだ。
「えーーー、、オ、、ッケィ。。」と答えたものの、OKなことは何一つなく、次に何をすればええのか、何を言えばいいのかどうかもわからなかった。
するとイングリットがフォローを入れてくれ「彼、今日初日でドイツ語勉強中やから、英語でもいーい?」とお客さんに聞いてくれた。
「あぁ!全然問題ないよ!」と言ってくれたので安心した。
若い世代のドイツ人は特にみなさん英語が話せるので、(いつもありがとうございんす。)と心の中で思っている。
たどたどしくも、一人目のお客さんを案内し終わり、「研修頑張ってね!」と声もかけてくれ、嬉しくなり、これからいろいろな国のゲストをお迎えしていくことが、とても楽しみになった。
その後も、数組のお客さんのチェックインを行い、レジを閉めて、その日は終了となった。
簡単にレジを閉めてというが、パソコンの操作は全部ドイツ語なので、1クリック1クリックごとに項目をメモに書いて覚えるという、感覚ではどうにもならない感じが、日本で働くのとはえらい違いだなと思った。
職場となるホステルだが、受付の裏にはバーもあり、ゲストはそこに集まってはお酒を交わしている。
終業時間のちょっと前にイングリットは「このあと、ビールいっぱいどない?」と誘ってくれたので、もちろん!と言い、一杯奢らせてもらった。
イングリットは世界中から来るお客さんの中でも、 日本人は礼儀正しいという印象を持っていたようで、マネージャーから今日、日本人の新人のトレーニングがあると聞かされた時は、(最悪!生真面目で、細くて、面倒くさいやつや ったらどうしよう。)と思ってはじめはかなり様子見だったらしい。
それに対してよく喋る僕は、 彼女にとっては良い意味で予想外だったらしく、早々に気を許してく れたようだった。
とりあえず、緊張から始まった初日だったが、楽しく終わりを迎える事ができた。
シフトには昼から夜にかけてのシフトと、朝から昼にかけてのシフトがあり、朝のシフトも経験することになった。
朝は僕より7歳ぐらい年上のハンガリー人、ペーターが主に担当していた。
フレンドリーというよりか、ニヒルな感じを持つ男、ペーター。
多くは語らず、淡々と仕事をこなしながら、クスッと笑えるジョークを交えて話をするタイプである。
朝の仕事といえば、チェックアウトするゲストから鍵を返してもらうことと、朝食の会計をするのが多く、繰り返し作業だったので割と早く馴染むことができた。
(ふっ、余裕だぜ。)と思いながら、ある事に気づいた。
朝は電話がよくなるのである。
お客さんや、取引先の業者など、いろいろな所からかかってくる電話にペーターはササッとドイツ語で対応していた。
(ハンガリー人やのに、ドイツ語ペラペラですごいなぁ。)と思いながら、僕は電話対応はまだ自分の仕事ではないですよ。思っていた。
いかんせんドイツのお宿なので、かかってくる電話は9割ドイツ人からで、1割が英語ぐらいの様子なのである。
そしてドイツの宿なので、「こんにちは!○○ホステルのなおやです!」ともちろんドイツ語で言わないといけないというマニュアルがあった。
それ自体は「Guten Tag. ○○Hostel, Naoya!」と言えばいいだけなのだが、そのあと、もしドイツ語で問い合わされても、全くわからないのである。
それは問題だろう。
少しイメージして頂きたいのだが、もしみなさんが、日本のお宿に日本語で電話して、「お電話ありがとうございます。○○ホステルのBenです!」と言われたので、日本語で質問内容を伝えると、そのBenとやら外国人は全く理解してないなんて、そんな事想像すらしないだろう。
もし、僕が電話に出たならば、そのカオスな電話対応が現実に起こってしまうのである。
しかし、心意気はあるので、(電話対応もできるように、ドイツ語しっかり頑張らないとな。)と思っていると、また電話が(プルルルルー)となった。
するとペーターは「じゃあ、電話でてみよか。」とニヒルな表情のままいうてきた。
「いや!無理やろ!」と即答したものの「いつまでも取らんわけにはいかんしな。練習あるのみ!さぁ!」と返された。
その間も魔のコールは鳴り響き、待たせてもアカンので、意を決して電話にでた。
「Guten Tag. ○○Hostel, Naoya...」
自信のない声が電話口をぬける。
案の定、ドイツ語で返答が返ってくる。
初心者レベルのドイツ語の知識を全集中させても、全く理解できない。
(あーこりゃ、困った。困った。)と思いながらも、どうしようもないので、
「すみません、ドイツ語苦手で、、、何言うてるか理解できなかったのですが、、、英語って、、話せますか?」
と聞くしかなかった。
前述の通り、ドイツ人は英語が話せる人が多いので、この電話以降も、だいたいこれでなんとかなった。
しかし、お客さんの立場にたつと、まずはドイツ語を理解できない奴に、ドイツ語で話すという全く生産性のない無駄な事をして、ドイツの宿に電話してるにも関わらず、英語で同じ事を繰り返さないといけないのである。
先ほどと同じようにイメージしてほしいのだが、日本の宿に電話してるのに、「イヤ、チョット、ナニイウテルカ、ワカリマヘン。エイゴデ、オネガイシマス。」と、Benに言われたら、特に英語の苦手な人が多い日本では特に、(おい、Ben!お前なんやねん。)といったところだろう。
改めて、ドイツの人には感謝だが、まれに英語が話せない方からの電話だと、「お手上げ!」と言って、他の同僚に変わってもらうというのを繰り返していた。
しかし、僕にとっては、まずドイツ語で話されて、ごめんちゃーい。ちゃい。して英語でもう一回言うてもらうので、非常に効率的な勉強方法なのだ。
そんなこんなで、ある程度たつと、ドイツ語でも空室確認などのお決まりの問い合わせについては理解できるようになり、ドイツ語と英語を交えて返事ができるようになった。
その後、数週間ぐらいで、全てドイツ語で返事をして完結できるようになった。
初めてドイツ語だけで問い合わせを終わらす事ができたときは、そっと電話を置き、一呼吸おいて、
「聞いてた?ドイツ語だけで電話終わらせることできた。。。」とその場におる同僚全員にアピールするぐらい本当に嬉しかった。
これを読んで頂いた方も「おぉ!」と思って頂いたかもしれないが、よくよく考えると、「電話にでた。」だけなのだ。
なんとまぁ、国が変わると電話ひとつとっても赤子のごとく非力な自分に気づいた僕は、自分のケツを自分でたたき、その後も引き続きドイツ語の学習を精進すると誓った。
そんなこんなで、初日から3日間の試用期間を無事終わる事ができ、本採用を勝ち取ることができたのであった。
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