インドの長距離列車


豪華すぎるムンバイ駅
 人の多さはさすがと言ったところ。
 寝転べるスペース

インドの雰囲気にもだいぶん慣れてきたつもりでおっても、どうしても驚かされるインド人の皆さんの「相手の気持ちはあまり考えません」という考え方。

心オープンで、フレンドリーで、興味津々、本能でやってます。といういい意味でもあり、実際に僕もそのインド人の心意気に助けられ、楽しませてもらっていた。

せやけどまぁ、お国違えば常識も違うっていうけど、インドと日本には大きな違いがよく見える。

僕は、ボリウッド映画で有名なムンバイから、仏教起源のまち、ブッダガヤに30時間の列車で向かった。

ちなみにインドの長距離列車には、到着時刻の横に(+04:00)とか書いてて、なんやろなと思ったら、平均して4時間遅れます。という意味とのこと。

いや、もう時刻表の時間変えーよ。

丸一日以上電車に乗り続けるなんて考えるだけでゾッとするんやけど、仏教ゆかりの地に行く事がインドの大きな目的だった為、気合を入れて乗り込んだ。

チケットを買った時に「寝台列車やで。」と言われてたんやけど、指定の番号に向かうと、みんな行儀よく座ってる。

しかも僕の番号のところに、おっちゃん座ってる。

ほんで、ベッドらしきものがなく、椅子のみの空間で焦る。

(30時間座り続けるのは無理や。何かの間違いや。そこのおっさんワシの席や。いや、せやけどワシの席であってほしくない。)と、色々な不安が一瞬で頭をよぎり、困惑しながら列車の入り口に戻り、車両番号を確認した。

切符と比べるも、車両番号、座席番号もあっている。

えぇ。。。と不安げな顔のまま、係員の人にチケットを見せたら、全く同じ場所に案内された。

そこにいた人たちは(あ、なんか黄色い肌の奴戻ってきた。)という顔でこっちを見ている。

インドの人はホンマによう人間観察してるなぁというぐらい、ガン見してくる。

僕の番号に座ってたおっちゃんに、係員の方が恐らく「こらこら、そこはアンタの場所じゃないでしょ。」と言ったかどうか、おっちゃんは席をあけてくれ、「さあ、どうぞ」と言わんばかりの満面の笑顔で僕に席を譲ってくれた。。

なんせみんな英語も話せないようで、言われるがままへらへらと座席に座り覚悟を決めた。

(チケットを買うときに騙されたのだろう。このまま座って30時間。頑張るしかないのだな。。。)

と不安な気持ちを抱え、気を紛らわせるように本を読んだ。

幸い、窓際だったので風を浴びながら、あぁ、旅してるんやなーと物思いにふけり、チラっと時計を確認するもまだ1時間も経ってなかった。

(あと、29時間、、、これ。無理じゃね。)と絶望感がちらつきながらも、うとうとし、次の駅で降りようか考えながら、目をつむった。

そうすると、向かいの女性がポンポンと僕の膝をたたき、何かを伝えてきた。

言葉では全く理解できなかったけど、上を指差し、目をツブって「寝る」ジェスチャーをみせてきた。

(そうだよ、一旦寝てから考えることにするよ。)と思いながら笑顔で「YES。YES。」と言いながら寝るポーズを返した。

そうすると、その女性は笑顔で立ち上がり、ガラガラと音を立てながら、天井からチェーンを引っ張り出した。

すると、どうだろう。

なんと寝床が現れたのである。

「オー マイ ゴッド! 折りたたみ式の寝床だったのか!」と声にだして感銘を受けた。

後から考えると、仏様の場所に行くのに、オーマイゴットはちょっと違ったなと思った。

寝床を作ってくれた女性は「さぁ、どうぞ。ここがあなたの寝床よ」と笑顔で薦めてくれた。

ホンマに安心して、嬉しくて、誰も英語わかりはれへんけど、

「ありがとうございます!!いやぁ~ホンマ良かったー!折りたたみ式とは知らず!ずっと座ったままやったらどーしようかと思ったー。ほんま焦ったー。」と矢継ぎ早に気持ちを述べた。

何言うてるか理解していないであろうけど、僕のあまりにも幸せそうな安堵感の表情を汲み取ってくれた、そこにいた皆さんの笑顔に見守られながら、寝床に駆け上がった。

寝台列車と言えど、1人が横になれるギリギリのスペースが与えられ、空調設備は無く、トイレは皆さんが想像する2倍ぐらい臭い。

夜に出発し、疲れも溜まっていたこともあり、すぐ眠りにつくことができた。

車内も消灯され、ほとんどの乗客が眠りについている午前2時頃。

「チャイーーー!!チャイー!チャイ。チャイチャイチャイ、チャーーーーイーーーーィィィィィ」

聞こえてくるチャイ売りの声で目が覚める。

何事や?!とガバッと起き上がったぐらいの声量、そして不気味な野太い低音。

チャイ売りの男は、チャイチャイ言いながら車両の通路を通り、チャイを売るのである。

せやかて、電気も消えて、みんな寝てる午前2時に誰がチャイ買うねんな。

しかも、早歩きのスピードで颯爽と通路を去っていくもんやから、チャイチャイー聞こえて「飲みたい!」と思った時にはもう遅く、チャイ売りの背中を見届けることになる。

失礼やけど、人の眠りを妨害する為に楽しんでるだけなんちゃうかな。と思うほど。

そしてインドにはこれを注意する役割の人もいなければ、そんな文化もない様子。

まいったな。。。と思いながらも、もう一度眠りにつく。

(すやすやすや。。。)

「チャイーーー!!チャイ!チャイ。チャイチャイチャイ、チャーーーーイーーーーィィィィィ」

またや。

チャイ売りは1人ではなく、複数人おるようで、30分にいっぺんぐらいはウチの車両を通る。

もうどうしようもないので、無視しようと努力する。

しかし、違う声質ではあるが、みんな同じリズムでチャイチャイいうてるのがオモロイなと思った。

午前3時頃、列車はスピードを落とし、次の駅に到着する様子やった。

(ほれ、チャイ売りの男たちよ。こんな時間に誰もチャイ買わへんかったやろう。次の駅で降りなさいな。そして明日の朝に向けて休憩でもして、次の列車に乗りなさい。その方が自分たちのためよ。)と心の中でアドバイスを送った。

しかし駅に近づくにつれ、何か騒々しい雰囲気を感じた。

次の駅についた。

インド独特のあの楽器が奏でる、爆音の音楽が駅で演奏されていた。

夜中の3時である。

チャイ売りの声もかき消されるほどの音量。

あーーーもう!なんやねんインド!うるさいねん!寝かせろよ!

「心の叫び」という言葉がこれ程マッチする状況もそうない。

これぞインド文化の、他人の気持ちはあんま気にしないぜ。の真骨頂とでも言おうか。

今ならチャイ売りの30分に1回が何とも思わん程度に感じるやろう。

勘弁してくれよ。チャイ売りさんたち、もう気にせーへんから早く出発して。。。

と祈っていたが、この後、約1時間もこの駅で停車する事を、その時の僕はまだ知らないのであった。