早朝登山サバイバル




フィリピンのあと、まだまだ東南アジアのビーチを体験したいと思い、インドネシアのバリ島に飛んだ。

観光島として人気のバリ島は、都会のビーチパーティーエリアと、外れにはバリ文化を残したところがバランス良く残っている。

ビーチでパーティーをひとしきり楽しんだ僕は、休憩する為に緑の自然とバリのヒンズー教の文化が強く残っているウブッドという町に移動した。

ウブッドは火山や滝などの自然が多く、宿で仲良くなった新しい友達らが活火山の登山を誘ってくれた。

(ほうほう。活火山の登山なんて、あまりできる体験ではないな)と思い二つ返事で行くわ!と答えた。

返事をした後に、ようよう詳細を聞いてみると、夜中1時半に集合し、3時間の岩山を登った後、頂上から朝日を見るというコースやった。

えー。。。しんど。。。

夜中の1時半に待ち合わせなんて、漁師か暴走族か、朝日見に登山行くぐらいかのどれかやな。

「男に二言なしや。」と父がよく言っていたので、参加する決心をきめて、早く寝ようとするも、9時ぐらいまで寝付けず。

アラーム自身も鳴らすかどうかちょっと戸惑ったであろう、午前1時。

「眠いのよ。」の一言。

普段から8時間以上は寝るようにしてるロングスリーパーの僕にとって4時間の睡眠なんて仮眠も仮眠。

えー、しかも今から山登んのかよ。

「めんどくさ。」と二言目。

集合場所のロビーには、同じく「眠い」と「面倒くさい」の二言を言い終えたであろう人たちが集まっており、挨拶もそこそこに車で登山口まで移動した。

車内では誰一人喋らず、きっと車自身も8人も乗ってるとは思ってなかったぐらい静かやった。

さっきから擬人化。

いざ、登山が始まると、少しずつ眠気も取れてきて、険しい岩肌の坂道をドンドン登っていき、気分も上がり、スーパー早起きの登山も悪くないなと思った。

そして3時間ぐらいで、頂上に到着し、少し離れたところにある別の火山が噴火中で、噴火と朝日のコンボはバリならではで、美しく登ってきてよかったと思えた。

よし、目的は遂行した。

楽しかった。美しかった。感動した。

しかし、こうなると、どうにもこうにも改めて眠たくなって、後は帰ってベッドに感動の再会をして、ベッドと愛し合うのみ。

「ベッドで」じゃなくて「ベッドと」

ようは寝るだけ。

そんな気持ちで、さっさと下山したかった。

したかったのに、全員で15人の参加者をガイドは上手くまとめる事ができずに、ちんたらぽんたら時間が経過していた。

眠たさが作るストレスは大きいねん。

下山は違うルートやったんやけど、しばらく歩くと、
ちんたらガイドから「ここは火山の地熱をそのまま感じられるよ。地面が温かいから触ってごらん」と言われ、なるほど岩盤浴みたいにじんわり暖かい。

いたるところから地熱の煙も吹き出しており、みんなはキャッキャウフフしながら写真を撮っていたが、僕は全身で地球の命を感じるぞと大の字で寝転び、背中に暖かさを感じ、5秒後には眠りに落ちていた。

よく何秒後になんとかっていう表現をみるけど、この時はホンマに5秒やった。

5 ,00秒ジャストやった。

15分ほど眠り続けて、「そろそろ行こうか~」と起こされる。

この地熱のぬくもりで極上の品質の睡眠やったのに。。。

心の中でチッと一発舌打ちを鳴らし、ダルイ身体を起こして、もう一刻も早く車に乗って宿に帰り、ベッドに身を委ねたかった。

しかし、下りとはいえ、駐車場までは2時間半ほどかかり、やっとの思いで車についた。

やっと、終わった。

ありがとうございました。

さぁ、運転手よ。あなたのその華麗な運転技術で、さっさと宿に返してちょうだいな。

あなたの残された仕事はもうそれだけよ。

と思ってたのに、ガイドが

「では、今から、コーヒー畑に案内します。色んなコーヒーが試飲できます。」

「中には、猫に豆を食べさせて、糞から取り出した珍しいコーヒーもあるんですよ」


いやいやいや。

猫糞コーヒー。

いま、このタイミングで、世界中で一番不要な物の1つに認定するから、行きたくないわ、そこ。

周りのみんなも、(え。。。)という表情で「所要時間はどれぐらい?」と始まる前から、終わる時間確認する始末。

全員の上マブタと下マブタが、「付き合って初めてお泊まりするカッブルの夜」ぐらい、一秒でも早くひっつくたいのに。

そんな私たちの気持ちをなかなか察しないガイドから

「コーヒーの後はここで有名な段々畑に行くのもきいてるよね?」

聞いてないし、聞きたくない。

ていうか、僕、昨日そこまで自転車で坂道必死に漕いで、もう行ってんねん。

昨日の努力も無駄になるがな。

普段なら嬉しい盛りだくさんのツアーもこの状況なら苦行僧に与えられる修行のようである。

みんなそれぞれ、行きたくないよね。。。と言いながらもツアーは敢行され、猫糞コーヒー畑では、どのように猫が豆を選んで、糞をして、その糞から豆を取り出し、焙煎するかの工程を説明された。

「色んなコーヒーを試飲できますが、猫糞コーヒーだけは有料です」と説明された。

全員「いりません。」と速やかに答え、無料で用意された、おちょこぐらいのサイズの数種類のコーヒーたちを4人組で回し飲み。

無料やし、別にいらんけど、もうちょっと入れてくれてええんちゃうか。

全員、低空飛行のテンションで、小さいカップのコーヒーの回し飲みは中々おもしろい光景やなと思った。

コーヒーの女店員は「さぁ、あそこにはお土産屋があるのでみてくださいね!」とひつこいぐらいに猛プッシュしてきたが、誰一人席を立たず、「お土産はいりません。」と断った。

店側からすると、無料の試飲をしたんやから、愛想でも土産屋見て行ってよ。ってなもんやったんやろう。

でも、それは僕らや店員さんのせいではなく、このスケジュールが悪いのだ。

僕たちは、一刻も早く帰って昼寝をしたいのである。

もう1つのオプション段々畑では、全員が2、3枚適当に写真を撮った後、
「もう帰ろうか」と全員一致で同意して、車に戻った。

「え、もう?!」という表情のガイドをよそに、「もうめっちゃ眠たいねん。。」と伝えて、ようやく車は宿に向かった。

宿まで30分ぐらいやったけど、いま変に寝たらアカンと言い合い、最後の力を振り絞って雑談しながら睡魔と戦い、睡魔のピークでようやく宿についた。

登山と睡魔に勝ち切った戦士たちは、それぞれ部屋に向かい、僕もドアを開けベッドをみた瞬間、心の底から喜びが込み上げてきた。

(やっと、会えた。。。ね。。。)と思ったか思わんかったか、ようやくベッドと愛し合うことができた。

時刻はまだ14時やったけど、登山をしたのが、まるで数日前に感じるような、長く、そして人生で1番眠たい1日であった。